江戸木版画の歴史・文化
江戸木版画は、素材・技術・表現のすべてが独自性に富んだ多色摺りの木版画技術で、日本における印刷技術のルーツと言われています。
その技術が確立したのは町人文化が花開いた江戸時代後期で、庶民が日常に使用する新聞や雑誌といった媒体を手工で印刷する役割として、庶民の生活に寄り添いながら成長しました。江戸時代の人々は、浮世絵版画を通して、流行のファッションや旅などの最新情報を手にしていました。
その発展を支えたのは、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重といった江戸の天才浮世絵師たちの活躍です。彼らは競い合うように新しいデザインの浮世絵木版画を発表し、日本独自のユニークな印刷文化を創り上げました。
その後、その文化はモネやゴッホ、ドビュッシーといったヨーロッパの芸術家達に多大な影響を与えるに至り、日本が誇る芸術文化の一つとして、今もなお、世界中で広く愛されています。
中でも葛飾北斎は、LIFE誌の「この1000年で最も重要な功績を残した世界の100人」に、日本人で唯一選出されており、その人気は衰えることをしりません。
そして、その技術は、170年もの間、職人の手によって引き継がれ、今日まで東京を中心に継承されてきました。
江戸木版画の魅力は、なんといっても多色摺りならではの鮮やかな発色にあります。多いものは20回から30回もの摺りを正確に重ね、独特の鮮やかな色調を表現しています。
紙は最高級の越前生漉奉書紙を使っており、ふっくらとした厚みのある和紙の肌触り、和紙に染み込んだ絵の具の風合いから、優しい温かみを感じることができます。
また、手摺り版画ならではの摺りの痕跡を見ることができることも、江戸木版画の特徴です。紙をひっくり返すと、表の絵が紙の裏までうつっており、摺師がバレンを動かした摺り跡を探し、楽しむことができます。
そして何より、版画に込められた歴史ロマンを楽しむことができるという点が、その文化が未だなお世界中の人々を魅了してやまない理由の一つです。江戸時代の人々が手にしていたものと同じものを手にし、その時代の人々の暮らしや景色に思いを馳せると、まるで江戸時代にタイムスリップしたかのようなロマンを感じることができます。