鳥居清長「袖の巻」

東京伝統木版画協同組合が構想より10年の時を経て復刻、全十二図が完成いたしました。

鳥居清長は、写楽、北斎、広重と並び六大浮世絵師の一人とよばれています。
清長の春画が復刻されるのは初摺り以来初めてのことです。

この「袖の巻」は浮世絵にはめずらしい横長にトリミングされたレイアウト。華美な装飾をなくした、シンプルな線描の美しさが特長の春画です。
難度の高い彫りと摺りの技術により再現された全十二図、心ゆくまで華麗でありながら耽美な世界に浸ってください。
実際の作品には、ぼかしは入っておりません。
其の一
「牛若丸と浄瑠璃姫」
年若い武家の若衆と姫の交わり。同時期に清長が描いた大判錦絵三枚続の「牛若丸と浄瑠璃姫」と髪型や衣服が似通うことから本図も同じ人物の組合せだとされているが、本来であれば二人のまわりに笛か琴が配置されてしかるべきところ。
其の二
「不意打」
年増の女房と、彼女に横恋慕する男だろうか。男は女の首元をぐっと抑えるが、女はその腕に手をかけ、もう一方の手でも抵抗している。後ろから女を見下げる男の眼と眉をしかめる女の眼との対比が印象に残る一図。
其の三
「岩田帯」
女が前面となり、背後から顔の半分隠れた男が描かれる点で第2図と同じ構図だが、二人の間に流れる空気は全く異なる。女は大きく丸みを帯びたおなかに岩田帯(腹帯)を締めており、妊娠中であることがわかる。男は亭主であろう。女を気遣うような表情をみせる。一方の女房はわずかに笑みをもらす穏やかな顔付きをしている。
其の四
「お嬢さんと手代」
振袖の若い娘と年上の男との図。経験の浅い娘の相手は慣れたものなのか、男は指を唾でぬらしながら、娘の不安をとりのぞくような言葉をささやいているようだ。娘の長襦袢は初々しさのある麻の葉鹿子、男は洗練された鮫小紋とそれぞれの人物の性格を読み手に想像させる一役をかっている。
其の五
「首ったけ」
黄八丈の小袖を着たお歯黒の女が男に乗りかかっている。乱れてほどけた髻が、女の積極性と勢いを表しているようだ。黄八丈の縞の間の細かな点線模様や隣接する男女の陰毛の質感の違いなど、彫・摺技術が試される表現が施されている。
其の六
「手習い」
手習所での若い男女の戯れ。前髪のある若衆も、少年の頬に堅く口寄せる娘も未だ毛も生え揃わぬ幼さである。画面左には文台の足がみえ、その傍らに手習い用の折本仕立ての見本が落ちていて、ここに至る経緯を類推させる。
其の七
「事の後」
夫婦の事後の一幕。女は腕を投げだし満足そうな表情を浮かべる.男も女に寄り添って眼を細める。それぞれの性器はなんとも無防備な様子で、お互いに安心しきった関係性であることを暗示するかのようである。二人にならって、枕もことんと倒れている。
其八
「揚げ帽子の奥女中」
揚帽子(角隠し)を被った武家の女性と恋人との逢瀬。揚帽子とは御殿女中や武家の女性が外出の時に被ったもの。外出の隙をぬった慌ただしさもあり、足袋も帽子も脱がずに急ぎ楽しんでいるようだ。
其九
「大原女」
若い男女の外での交わり。女が枕代わりにしているのは、黒木の束。その装束から京都大原の黒木売りの大原女だとわかる。男の鬢はぼさぼさと乱れ、洗練されていない田舎者のように見えるが、小袖の背に四ツ目紋があることから江戸両国にあった四ツ目屋の手代とする解釈もある。その場合、本図はまさに「東男に京女」となる。
其十
「羽織芸者」
黒羽織の芸者と手練れの客との一戯。痛みか悦びか、女は手の甲を噛みしめ眼をとじる。男の表情はどこか冷静で、珍しい交わりに対する女の反応をうかがっているようにもみえる。
其十一
「夏の夜」
本組物で唯一口吸いの瞬間を描いた図。身に纏うものは下着のみ、添えられているのは桜紙だけと、描くものと色彩を極限まで絞って見るものの意識を交わりのたのしみへと集中させている。
其十二
「品定め」
ここまでの図とは趣向を変え、三つの異なる「開(女性器)」を描き分ける一図となっている。「饅頭新開之図」は、無毛の幼い娘が湯文字をめくりあげようとする男の手をきつく握って抵抗しているところ。「上品開之図」は、白い湯文字の間に男が手をいれてたのしんでいるところ。「淫乱開之図」は中央図と同じく後ろから男の手と性器が迫っているが、赤い湯文字、迫力のある性器、濃く茂る陰毛が「淫乱」たる性質を表しているようである。

【序文】
夫陰陽は混沌たる中より備り、天神七ツの代、伊弉諾冉の両尊、天の浮橋の上にて溝交合し、喜哉遇可美少女と曰、是情欲の始也。とかうして人間および禽獣虫魚に至るまで交せずといふ事なし。やんごとなき雲の上人も、節会のしのび寝には百とせの命もきへなんとちぎり、猛き武士も色情に至りてハ心をとろかし、愛たき髪、芙蓉の顔にハ老たるもわかきもこゝろときめき、互に想慕は此道の情ならむ。春野の雉子、秋の鹿、声もかたちも異なれ共、つま乞ふ思ひハかわらまじ。実や色好ざらむ雄ハ玉の觴の底なき心地と兼好のすさみも亦むべなるかな。彼の漢王ハ李夫人の容貌を壁に画ツゝ、自画図に寄添ひて、心を慰め給ふとかや。また古の越王は、西施とかわすむつごとも、会稽山の袖袂、ひるがへしたる錦画に、淫姿をあらわして、気鬱の胸もうち解て、開く思や窓の梅、色香を袖の巻となし、好人の心をなぐさむるものならじ。
「自惚」

江戸木版画 鳥居清長「袖の巻」
全十二図、序文
限定 70 部初摺り

技法:伝統手摺り江戸木版画
用材:山桜
用紙:越前生漉奉書紙

解説:石上阿希(浮世絵研究者)
監修:浦上 満(浦上蒼穹堂)

制作統括:東京 高橋工房

発行:東京伝統木版画工芸協同組合

特製帙箱入り

紙寸:縦 約14×横 約70cm
画寸:縦 約11.7×横 約65.5cm

価格:880,000円(税込)

国内送料:全国一律2,000円(税別)
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【帙箱】 サイズ:縦 約15.3×横 約72×厚さ2.5cm

【袖の巻 専用額】(受注生産品)
55,000円(税込)
額寸:縦28×横91×厚さ3.5㎝、重さ2.1kg
布製差し箱入り

※受注生産品つき、ご注文より納品まで約1ヶ月お時間頂戴いたします。

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